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三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)は2024年11月、企業向け生成AIソリューションを提供するカサナレ株式会社(代表取締役:安田喬一、以下カサナレ)への出資を発表した。カサナレは、企業の業務課題に応じてカスタマイズ可能なエンタープライズ生成AIソフトウェア「Kasanare(カサナレ)」を主力製品として提供している。
「Kasanare」とは
Kasanareは、あらゆるテクノロジーピースを組み合わせて、LLMの性能を最大化し、企業の課題に合わせたカスタマイズ型ソリューションを提供するサービスだ。既存のシステムやデータ保護の要件を満たしながらも、社内全体でのLLM活用を実現することが可能である。
安田氏は、かつてDXコンサルティングに従事していた際の経験から、業務効率化における本質的な課題に気づいたという。
一般的に業務効率化の成功のためには、『導入ツールを正しく使いこなせるようにトレーニングする』という社内での学習期間が必要となります。しかし利用者にとっては、そもそも『新しいことを学ぶ』という行為自体が業務増加になってしまいます。効率化を目的にしたツール導入によって、逆に現場の負担を増やしてしまうという矛盾が発生してしまうのです。
この課題認識から、「現場が学ばなくても実現できるDX」という新しいアプローチを目指してカサナレは設立された。
独自の「カサナレテクノロジーピース」がもたらす革新
カサナレの最大の特徴は、「カサナレテクノロジーピース」と呼ばれる独自の技術群にある。検索アルゴリズム、データ最適化、セキュリティ強化など、それぞれのピースが企業の課題に応じて組み合わされることで、独自のAIソリューションが完成する。
例えば、エンタープライズ向けの「Azureセキュアピース」「多言語対応ピース」「記憶領域ピース」の組み合わせでは、企業独自のセキュリティポリシーや複雑な認証管理に対応し、安心して生成AIを導入・活用できる環境を構築可能だ。
実際の導入効果も顕著で、三菱UFJ信託銀行との取り組みでは、正答率9割以上のAIシステムを実現し、問い合わせ対応時間を50%削減することに成功。社内ヘルプデスクや社内研修といった社内効率化、コールセンターやFAQシステムといった業務の効率化など、幅広い分野での「生成AI×DX」の推進をサポートしている。
MUIPからの出資と成長戦略
MUIPからの出資を受けた理由について、安田氏は次のように説明する。
三菱UFJ信託銀行様とのプロジェクトを通じ、MUFGグループが生成AI活用に積極的に取り組み、その取り組みが社会に大きな意義をもたらしていることを深く実感しました。こうした姿勢は、当社の事業と高い親和性を持ち、共にさらなる価値を創造できると確信していましたので、是非とも次回ラウンドでは株主参加いただきたいと弊社側からアプローチをさせていただいたことがきっかけです。
カサナレの成長戦略は3段階で構成されている。第一に、現在提供しているAI技術をさらに進化させ、クライアントの業務課題に対してより高度で個別化された解決策を提供していく。第二に、業務効率化だけでなく、人材育成やチームマネジメント等にも対応できる包括的なサービスの提供を目指し、「働き方の変革」を支援するパートナーシップの拡大を進める。そして第三段階として、国内外の企業や行政機関、教育機関との連携を通じて、生成AIを活用したDX推進をより多くの分野に広げていく計画だ。
未来への展望:AIと人間の新しい協働の形
社名の「カサナレ」には、クライアントの成功体験と自社の成果が重なり合い、共に未来を積み上げていくという思いが込められている。
カサナレが目指すのは、単なるツール提供企業ではなく、「業務効率化と成功体験の民主化」を推進する存在だ。AIが人間の仕事を代行する時代が到来する中で、AIと人間がシームレスに協力し合い、働き方や生活の質を向上させる社会の実現を目指している。
そのため、技術開発に加えて、利用者が安心してAIを受け入れられるよう、透明性や倫理的な配慮も重視している。「人が学び、努力し、対応するのではなく、AIがその役割を担い、人は本来の創造的な業務や意思決定に集中できる環境を提供する」という理念のもと、未来の働き方や成功の形を再定義しようとしている。
MUIPは、カサナレとの協働により、企業における生成AI活用の新たな可能性を追求していく。この協働を通じて、MUFGグループやMUFGの顧客企業の業務効率化における新たな変革が、更に推進される可能性を見込んでいる。