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三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)は2024年11月、督促回収テックを展開するFintech企業Lectoへの出資を発表した。同社は債権管理から回収までを一気通貫で支援するプラットフォームを提供し、2021年の創業からわずか3年で累計取扱債権額470億円を突破するなど、急成長を遂げている。
「Lectoプラットフォーム」とは
Lectoの創業は、金融業界における長年の課題認識から始まった。戦後から何十年も変わることのなかった、人と紙を中心としたアナログな督促・回収業務。この領域に、CEOの小山氏はデジタルを起点とした抜本的な変革が必要だと感じていた。
さらに、この10年における金融環境の大きな変化も創業の背景にあった。
金融規制緩和や国を上げてのキャッシュレス政策によって、この10年ほどの間で金融債権の小口化と多様化が急速に進みました。それによって1金融会社あたり月間数百万件の小口債権の管理や回収を行う必要が出てきましたが、それに対応できるような仕組みが世の中に存在していませんでした。(小山氏)
カード会社での債権管理業務の経験と、その後15年に及ぶ金融・決済領域でのキャリア、特に前職での経験を踏まえ、世の中にない新しいサービスを提供できる自信があったという。
同社が提供する「Lectoプラットフォーム」の最大の特徴は、債権管理や督促、回収に特化した包括的な機能を備えていることだ。企業が保有する顧客データを連携させ、これまで人力で行っていた債務者データの収集、連絡、入金確認といった一連の業務を一元管理し、自動で実行する。
ただ督促手段をデジタルに置き換えるのではなく、データを蓄積し、最適な督促手段にカスタマイズすることも可能です。例えば、日中働いている方が多い場合は、SMSやIVR(自動音声通話システム)で帰宅後の時間帯に連絡をするなど、ユーザーの属性に合わせて督促を出し分けることができます。(小山氏)
現在、メール、電話(IVR)、SMS、書面の4つの手段を選択でき、導入企業は蓄積したデータを参照しながら、ユーザーの属性や個性に合わせてグループ(セグメント)を作成。それぞれの督促手段ごとに通知手段をカスタマイズして自動実行できる点が、高く評価されている。
急成長の軌跡とMUIPからの出資
2021年の創業以来、Lectoは順調な成長を続けている。昨年11月で創業5期目を迎え、累計取扱債権額は470億円(2024年10月末時点)を突破。金融分野に限らず、レンタル・サブスクリプションサービスや公共料金・税金、不動産の賃料、通信費など、幅広い分野での導入実績を重ねている。
MUIPからの出資を受けた理由について、同社は次のように説明する。
MUFGさんはメガバンクの雄であり、当社のような事業ドメインの会社の立場からすると、是非仲間に入っていただきたいと考えていました。実は1年以上前から担当の方とは懇意にしていただいており、MUFGグループの有力な会社さんのご紹介をいただくなど、ご出資を頂戴する前にもかかわらず大変良くしていただいていました。今ラウンドのリード投資家が決まったタイミングですぐにお声がけをさせていただき、ありがたいことにその後はトントン拍子で話が進んでいきました。(小山氏)
今後の展望とエグジット戦略
Lectoは現在、まさにグロースステージに突入したという手応えを感じている。今後の成長戦略として、4〜5年以内にARR(年間経常収益)100億円超を目指す。さらにその先には、大型のエグジットを視野に入れている。
小山氏は、「当社はスタートアップであり投資家の皆様からのご出資を頂戴しながら事業を推進している立場である以上、必ずや投資家の皆さまへ大きくご恩返しさせていただくことをお約束いたします」と、力強く語る。
Lectoの事業領域は一見ニッチではありますが、幅広い分野に共通する課題です。QRコード決済をはじめとする決済の仕組みの多様化に伴い、債権管理が必要になるシーンが増加しています。債権や督促と聞くと金融のイメージですが、公共料金やインターネット通信費、家電や洋服をレンタルするようなサブスクリプションサービスなど、私たちの生活の身近な部分に存在しています。(小山氏)
組織づくりと採用戦略
組織面では「自立した組織」を目指し、チームメンバー全員が「開発上の課題を解決し、事業目標を達成するためにどうすれば良いか」を自ら考え、調査し、相談し、決断できる環境を整備している。年齢やポジションに関係なくフラットに話し合い、背中を預け合う関係を築いているという。
今後の事業拡大に向けて、同社のビジョンやバリューに共感するセールスやカスタマーサクセス、エンジニアなど、各分野で積極的な採用を進めている。
MUIPは、Lectoとの協業を通じて、債券管理や督促回収業務のデジタル化を推進し、金融インフラの近代化に貢献することを目指している。この協業により、従来のアナログな業務プロセスが大きく変革されることが期待される。