三菱UFJ銀行とLayerX「AI × DX」未来連携の裏側を語る ーー MUIP Innovation Day 2024レポート 3/3

2024.12.04

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本稿は三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)が10月18日に開催した大型イベント「MUIP Innovation Day 2024」のセッションをまとめたもの。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の事業会社各社とのオープンイノベーションを念頭に、スタートアップ・テクノロジーとの融合はどのようなシナジーを生み出すのか。セッションの内容を紐解いてご紹介する。

「AI × DX」未来連携の裏側を語る

10月4日、三菱UFJ銀行と法人支出管理サービス「バクラク」を中心とする企業のデジタル化を推進するLayerXが業務提携を発表した。

両社のトップマネジメントが登壇し、スタートアップと大企業の新たなアライアンスの形として注目を集める本提携の狙いや、協業を成功に導くポイントについて語り合った。

業務提携の概要と背景

発表された三菱UFJ銀行とLayerXの業務提携は、4つの主要なアジェンダを掲げている。

  • 顧客の業務効率化における協働:LayerXの法人支出管理効率化SaaSサービス「バクラク for MUFG」を、三菱UFJ銀行の法人顧客向けに提供し、請求書処理や経費精算などの業務をAIのサポートで一本化する。
  • 法人支出管理×銀行決済等領域における協働:バクラク各サービスと三菱UFJ銀行の各種決済サービスとの連携や、共同でのマーケティング活動を推進する。
  • 法人カード領域における協働:バクラクサービスとMUFGグループ各社が提供する法人カードの明細データのシステム連携を検討し、経費精算業務の効率化を図る。
  • 法人支出管理領域のデータ活用ビジネスにおける協働:バクラクサービスの利用データと三菱UFJ銀行が保有する決済データを組み合わせ、新たなビジネスモデルの検討を進める。

三菱UFJ銀行の執行役員、決済企画部長兼デジタル戦略統括部部長を務める野呂崇享氏は、この提携の展望について次のように説明する。

1点目として、お客さまの業務体験を変えるということをバクラクの提供を通して実現していきます。次に(LayerXのサービスと)銀行の決済や三菱UFJニコスのカードといったMUFGの各種金融サービスをしっかりと繋げていくことを目指します。(中略)3点目として、法人の支出管理、所謂ビジネス・スペンド・マネジメントと言われる領域を中心に、データを活用してお客さまの経営課題の解決に貢献していきたいと考えています (野呂氏)。

野呂氏は、法人領域のデジタルソリューションを担当する立場から、これまで真の意味で顧客体験を変えるようなサービスの提供に課題があったと振り返る。そんな中、LayerXとの対話を通じて、これまでぼんやりとしていた構想が具体的なサービスとして形になる手応えを感じ、今回の提携に至ったと説明した。

今回の協業では顧客のワークフローのデジタル化と、そこに蓄積される商流・金融データの活用を同時に実現することで、新たなビジネスの創出も目指している。

スタートアップにとっての大企業アライアンスの意義

LayerXの代表取締役CEO、福島良典氏はスタートアップと大企業のアライアンスについて、ある変化を説明する。

競争から協創へ、という変化が起こっていると思います。従来、スタートアップには既存をイノベーションで置き換えていこうという傾向があったかと思いますが、スタートアップが20年、30年と成長してくる中で、協力する部分と競争すべき部分が明確に分かれてきているのです(福島氏)。

スタートアップだけでは対応できない部分があり、一方で大企業にも社会的な役割の違いがある。それぞれの強みを補完し合える関係性を築くことが、これからのアライアンスには求められている。

特に金融領域への展開において、このような協業の重要性は高まっている。

LayerXのようなソフトウェアサービス提供企業が独自に金融事業や銀行業を展開することはハードルも高い。一方、三菱UFJ銀行は金融ライセンスを持ち、LayerXは日々の請求書処理や経費精算などのトランザクションデータを持っている。

この組み合わせにより、業務効率化はもちろん、将来的な融資の方法や決済のあり方まで変革できる可能性が生まれる。福島氏はこうした中、「銀行にお客さまを紹介してほしい」という単純なスタートアップの都合や、「このソフトウェアサービスでどれだけ儲かるのか」という大企業の視点だけでは、真の協業は生まれないと指摘する。

単なるサービス紹介や業務提携にとどまらず、両社が協力することで互いの価値を高め合える関係性、つまり「一緒にやることで銀行にもメリットがあり、我々も成長できる」という形を作ることが重要だと説明している。

このような考え方は、三菱UFJ銀行側からも共感を得ている。

野呂氏は、スタートアップ企業との対話が増える中で、次のビジネス展開としてフィンテックや金融領域に踏み込みたいという要望が多いことを認識しており、銀行としてもスタートアップとのパートナーシップを組みやすい環境が整ってきていると感じているとコメントしていた。

三菱UFJ銀行が感じたLayerXの強み

三菱UFJ銀行 執行役員 決済企画部長兼デジタル戦略統括部部長の野呂崇享氏

三菱UFJ銀行がLayerXと提携した理由について、野呂氏は「圧倒的な違い」を感じたと語る。

特に印象的だったのは、LayerXのワークフロー変革へのこだわりである。従来、銀行がお客さまに提供してきたDXソリューションは、SaaSサービスを紹介するだけに留まってしまうケースが多かったという。

(LayerXは)特にワークフローの詳細化に徹底的にこだわっている点をとても素晴らしいと感じています。LayerXのサービスは、お客さまが業務において何に困っているのか、どうすればこの業務を無くせるのか、そういった顧客体験を徹底的に改善する点にものすごくこだわっていらっしゃる(野呂氏) 。

特に強調されていたのは「システムを人に合わせる」という発想である。AIの力を活用することで、従来のように人がシステムに合わせるのではなく、システムを人に合わせることを実現しようとしている。

この点は日本企業の特性を考えると視点も変わる。

野呂氏は、日本企業の業務フローは非常に細かく、それぞれが独特のこだわりを持っていると指摘する。三菱UFJ銀行自身も、かつては独自の業務フローにこだわり、品質向上のために徹底的な取り組みを行ってきた経験がある。しかし、そのような独自の業務フローは、自社に最適化されているが故に簡単には変更することが難しいという課題もあった。

LayerXのソリューションは、そうした課題に対して、データを起点としたUIとAIの掛け合わせによる新たな顧客体験の創造を提案するものであり、この考え方に野呂氏は強く共感し、提携の決め手となったと説明している。

成功のカギとなる両社の取り組み

LayerX代表取締役CEOの福島良典氏

本提携の実現までには1年以上の期間を要した。

その過程で両者は重要な学びを得ている。福島氏は、大企業とのアライアンスを成功させる上で最も重要なポイントとして、トップマネジメントのコミットメントを挙げる。

この協業のポイントって野呂さんだったと思います。野呂さんと我々は、ちょっとラフな表現すると『ウマが合う』と言いますか、すごくスピード感や見ている世界が同じだったんですよね。その中でうまく役割分担できたと考えています(福島氏)。

スタートアップ企業とのオープンイノベーションでよく陥る罠として、アライアンス担当者を置いて経営陣があまり関与しないパターンがある。しかし、今回の提携では両社の役員が直接コミットし、同じビジョンを共有することで、スムーズな意思決定が可能になった。

また、福島氏は受発注の関係に陥らないことの重要性も強調する。

スタートアップ側の立場が弱くなりがちな中で、単なるシステム開発の受託者になってしまうことは避けるべきなのだ。代わりに、同じリスクと同じリターンを目指す対等なパートナーシップを構築することが鍵になってくる。

両社は、「何を目的にこれをやるのか」という本質的な議論を重ね、時には突飛なアイデアもぶつけ合いながら、現実的に実現可能な形を模索した。その過程で、単なる売上目標ではなく、構造改革や新しい価値の創造という共通のビジョンを見出すことができたのだ。

期待を上回る反響

提携発表後の反響は、両社の期待を大きく上回るものであった。特に、発表直後から多くのリードが生まれたことは、お客さまのニーズと課題の大きさを示す注目すべき成果となっている。この手応えについて、野呂氏は次のように評価する。

10月4日の業務提携発表後、多くの問い合わせや反響を頂戴している状況です。今まで私たちがやってきた中で、このような経験は多くなかったと記憶しています。やはり現場の声を聞いていると、極めて分かりやすいサービスで、お客さまに訴求しやすいということでした(野呂氏)。

このような初期成果が出ている背景には、単なる技術提携以上の意味がある。野呂氏は「三菱UFJ銀行の大切なお客さまにより良い体験をしていただきたい」「将来的にはお客さまの生産性向上や業務改善を実現したい」という明確なビジョンがある。だからこそ、その実現に向けた第一歩として今回の提携を位置付けている。

オープンイノベーション、大企業とスタートアップの協業は一筋縄ではいかないケースがほとんどだ。例えば大企業特有の課題として、担当者の異動により、プロジェクトへの熱量が低下するリスクもよく聞かれる。

この点について野呂氏は、「最初から受け継がれるようなバリュー」の重要性を指摘する。何を実現したいのか、どんな新しい価値を提供したいのかという本質的な部分を組織に根付かせることで、担当者が変わっても継続的な取り組みが可能になる。

大小さまざまな課題があったとしても、スタートアップの革新的なイノベーションを生み出す力と、大企業が伝統的に持っている豊富な資産の数々の融合には可能性しかない。

幸先のよいスタートを切った分、今回の取り組みで得られる知見は、金融機関とスタートアップの新たなパートナーシップモデルを示す重要なベンチマークとなる可能性を秘めている。

この提携を通じて、三菱UFJ銀行とLayerXは共通のビジョンと価値観に基づき、持続可能な協業モデルの構築を目指す。両社の取り組みは、スタートアップと大企業のアライアンスの新しい形を模索することにもなるはずだ。

三菱UFJ銀行とLayerX「AI × DX」未来連携の裏側を語る ーー MUIP Innovation Day 2024レポート 3/3