評価額250億円、逆転の資本政策と「カンム流」スイングバイIPO(3/3) 単独IPOとの違い ※Q&Aセッションより

2024.06.20

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去る4月末日、三菱UFJイノベーション・パートナーズはスタートアップメディア「BRIDGE」が主催する勉強会に協力した。スタートアップの新たな成長戦略として注目を集めるスイングバイIPOをテーマにしたもので、セッションには2022年12月、MUFGが250億円の評価額で子会社化したカンム創業者、代表取締役 執行役員 CEOの八巻渉氏が登壇。

また、三菱UFJイノベーション・パートナーズからは本件に詳しいChief Investment Officer、佐野尚志がセッションに参加した。本稿ではいくつかの回に分けて、その勉強会のレポートを掲載する。前回ではカンムがなぜMUFGグループ入りすることになったのか、登壇した二人の言葉を振り返った。最終回は会場からいただいた質問に二人が回答したQ&Aセッションの様子をお届けする。

登壇者紹介

八巻渉氏

カンム代表取締役 執行役員 CEO

慶應義塾大学理工学部情報工学科卒業後、大学と産学連携プロジェクトを進めていたStudio Ousiaにデータ解析のエンジニアとして入社。2011年にカンムを創業。

佐野尚志

三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)Chief Investment Officer

三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)のChief Investment Officerとして、AUM800億円のファンドを運営し、国内外のスタートアップ投資と新規事業開発を担う。MUIP以前は、グローバル・ブレインにて国内外スタートアップ投資やCVCの運営に従事。それ以前はソニーにて、技術投資やJV設立等の新規事業プロジェクトのファイナンス、またリテールエナジー事業のカテゴリー責任者として、海外事業を運営。

Q&Aセッションより

ここからはイベント当日に会場からいただいた質問の中から公開できるものについて掲載させていただく。

質問(1)スイングバイIPO、つまり大手の傘下に入ることで経営について意識すること、単独の経営やIPOに比較して変わったことがあれば教えて欲しいです

八巻:ひとつわかりやすく言うと、先程もお話した通り、(親子上場が前提になるので)、一般論としてはエクイティの比率に制約が生まれうるので全てそれを前提にしたものになるというのはあります。ただ、それ以外は単独IPOの延長線上の話なので変わりはありません。予算を守るというのも普通にIPOのために必要ですし、最初からスイングバイIPOを狙ってできるものではないので、単独IPOを目指す過程で結果論として、こういうスキームにすればシナジーがあるかもしれないし、ファイナンス的にはメリットがあるところに落ち着いただけであって、考え方は単独IPOを目指すというところに置いておかないと難しいのではないかなと思います。

佐野さんは受け入れ側の立場に近いですが

佐野:あくまで一般論としての話にして欲しいのですが、やっぱり日本のスタートアップはIPOを目指しましょうというのが大前提なんですね。

いろいろデータがあると思うんですけど、9割、つまりほとんどのケースはIPOを目指すのが日本の市場なんです。しかし実は米国は反対でM&Aが9割以上で、マイルストーン的に自分の立ち上げたスタートアップをこのぐらいの規模にして、このぐらいに持っていったら、こういう買い手の候補がいて、この買い手がOK出すとさらに事業がスケールするから、このマイルストーンをまずは頑張りましょう、そういうプロセスを考えた上でスタートアップする起業家もいるぐらいなんです。

日本ではまだまだ起こりづらいケースなんですけど、そういうケースが外の世界で起こっていることを考えると、それが100%の買収なのか、スイングバイIPOなのかは選択肢としてあるにせよ、もっと成長するために最適なパートナーが実は事業会社にいましたとか、金融機関にいました、といったことは今後も起こっていいんじゃないかなと期待しています。

質問(2)スイングバイIPOの見極めタイミングについて教えて欲しい

八巻:タイミングを見計らってIPOするというのは(状況に左右されることが多いので)あまりいないと思うんですけど、みなさん先程お話したデュアル・トラック(IPOとM&Aの両睨み)で動かすはずなんですよね。相性がいい会社さんがいればいくらでも事業を伸ばしてバリエーションが見えたらやるって感じだと思います。あとよく言われる話として、一定額以上のバリュエーションでなければ機関投資家は相手にしてくれないので、それを目指すために単独ではなく、スイングバイIPOを選択肢として選んで一緒にそれを目指すっていうのは美しいストーリーとしてはあると思います。

質問(3)IPOと異なりM&Aは事前開示が難しく、発表まで一切外に出せないことがあるので、特に社内へのコミュニケーションが難しいケースがあります。カンムの場合はどのようにしましたか

八巻:元々、フリークアウトが大株主だったこともあり、やることがほぼ変わらないという意味においては説明はそんなに複雑ではなかったです。ただ、新聞に事前にその話が出ちゃったこともあってみんな知ってしまっている状態でしたね。ケースにおいての対処法みたいなものは用意していたので、シナリオはできていて、こういうスケジュールでやっていこうと思いますっていうのを普通に説明した感じでした。

佐野さんは投資家の立場でどのようなアドバイスを送りますか

佐野:特に投資家の立場では、売る方が多いんですけど、やはり常に大事なことはまさにマイルストーンの一つであるっていうことをちゃんと言い続けることかなとは考えています。あくまで次の成長へのフェーズの始まりですよ、というのは大事なメッセージですね。

八巻:マネージャークラスなどに関しては事前にかなり話をしていましたね。要はデューデリジェンスの過程でシナジーをどうするかという話が出ると、経営陣だけというよりは、現場やマネージャークラスにはどういうシナジーがあるかとか、こういうのがあったらできるかなという話を個別に一人ひとりにしっかりと説明して動いてもらいました。やはりキーマンをしっかりと抑えるのはひとつポイントだと思います。

佐野:実は買い手側という話でもすごい大事なことだと思っていて、買ったはいいけど大事な人が辞めちゃいました、という話って世の中にそれなりにあるんですね。今以上に成長させようと思ってるのにそ

のために必要な人がいないというのは避けなければいけないので、買い手側の会社にとってとても重要な話になってくると思います。

最後に一言

八巻:買収されるというと何かちょっと経営者としては悔しいという部分があるかもしれませんが、それがあるうちはやらない方がいいのかなと思います。経営者がしっかり自分の意図としてこうやりたいからやるんだというのがあるなら成功するだろうし、無理やり誰かに言われたからやるとか、金銭的な部分で何か決まっちゃった、というのはモメンタムのようなものが維持できなくなる。まずは経営者が腹をくくれるかどうかっていうのが一番大きいかなとは思います。

佐野:IPOももちろん一つの選択肢ですし、それ以外のM&Aも一つの選択肢である中、最適なファイナンスのストラクチャーを求めて、いろんな選択肢を持ちつつ常に考え続けることが、単純だけど難しく、とても大事なことかなと思いますね。

評価額250億円、逆転の資本政策と「カンム流」スイングバイIPO(3/3) 単独IPOとの違い ※Q&Aセッションより