コーポレートカードから始まったPayEm、承認から精算まで経費に関わる全てを自動化したワケ

2024.06.05

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PayEm CEOのItamar Jobani氏

本稿は三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)が昨年に開催した大型イベント「MUIP Innovation Day 2023」に集まった注目のフィンテック・スタートアップをご紹介するもの。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の事業会社各社とのオープンイノベーションを念頭に、どのようなシナジーを生み出すのか。前回に引き続き、セッションの内容を元に各社の取り組みをご紹介する。

経費に関わる全てを自動化した「PayEm」のワケ

経費精算は面倒だ。SaaSが普及して紙で精算書類を提出する必要は無くなったものの、項目を一つずつ調べ、用途を書き、領収書を添付する(SaaSの場合、スキャンして画像添付を求められることが多い)という行為は、紙でやっていた時代と何ら変わっていない。受け取った経理部門も、それらを勘定項目によって分類したり、部署や用途毎に割り当てた予算内に収まっているかを確認しなければならない。こうしたルーチンワークが、毎月毎月続くわけだ。

PayEm CEOのItamar Jobani氏も、PayEmを始める前、イスラエルでソフトウェア開発者として働いていた時、毎月のように経費精算を促すメールが届き、その都度、本来やるべき仕事を進められずに手が取られ、憂鬱な気分に浸っていたという。イスラエルでは、企業に勤める社員が近隣のレストランでの支払に使えるスマートカードがある。このカードは限られた店舗でしか使えないが、備品購入をはじめ、その利便性を他の分野にも始められないかと考え作ったのが、PayEmのコーポレートカードだ。

顧客からの声に耳を傾けた結果、PayEmが手がけるのは、クレジットカードにとどまらず、経費承認の自動化、買掛金の自動化、発注書の作成にまで広がるようになった。特に便利なのは、経費精算もさることながら、経費承認が自動化されていることだろう。従業員から出された事前の支出要求に基づき、PayEmはデータを収集し、その経費に関連する関係者にも通知、予算の監督者には予算編成機能を提供する。こうすることで、監督者は会社全体の経費の使われ方を把握でき、社員は円滑に経費承認を得ることができる。

「顧客が抱えるペインはそれぞれ違っていて、それは決して、(コーポレートカードで解決できる)決済の問題だけではありませんでした。ここまで機能が増えたのも、それを一つ一つ解決していった結果です。この分野では他にも競合がいますが、多くのソリューションは大企業を対象としていて、我々は中小企業にフォーカスすることにしたんです。一見すると多くの競合がいるように見えますが、それは誰をターゲットにするかで変わってきます。我々が手掛けている部分は、他社にとっては盲点だったかもしれません」(Jobani氏)。

Verified Market Researchによると、企業の支出管理ソフトウェア市場全体の規模は2019年時点で10.8億米ドル、2027年には39.7億米ドルに達する可能性があるとみられている。PayEmはコーポレートカードを発行するにあたってAmerican Expressと協業関係にあるが、大手カード会社にとっては、中小企業の経費支払に使ってもらうという、これまでアクセスのなかった市場を開拓できる上、PayEmにとっては誰もが知る絶大なブランドの後ろ盾ができるというメリットがある。

モデレータを務めたMUIP Chief Investment Officerの佐野尚志が、Jobani氏に日本(や日本企業)の印象を尋ねると、今回が初めての来日ではあるものの、来日前から、日本の独特なビジネス文化が生み出した卓越さ、ビジネスに対する責任といった洗練された概念についてはよく話を聞いていて、到着してから短い時間ではあるがそれが実感できたという。イスラエルのビジネス風土と対極的だが、それゆえに相互に補完関係が構築できるだろうと、今後のMUFGや日本企業との協業の可能性に期待を込めた。

PayEmについて

PayEmウェブサイトより

PayEmは、イスラエルのスタートアップで、中小・中堅企業を対象とし、従業員の経費精算、発注、支払い、クレジットカード管理など、複雑なワークフローを自動化し、130の通貨で200を超える地域への支払いに対応しています。

PayEmを使えば、企業の財務チームは従業員の経費予算(購入)申請、承認、支出状況のリアルタイムでの把握、紐づいた請求書やレシートとの自動照合、そして支払いまでのプロセスをエンドツーエンドで一括管理することが可能です。企業の組織構造に合わせ、チームや部署別に予算と期限を設定し、申請種類毎に承認フローをカスタマイズできます。

PayEmでは、各部門が自由に事業に必要なものを購入できますが、予算管理と承認プロセスを通じてガバナンスが担保される仕組みになっています。効率的な支出管理を実現する新しい運営モデルを提供しており、主なサービスはコーポレートカード発行、経費承認の自動化、買掛金の自動化、発注書の自動化などで、中小・中堅企業にフォーカスし、大手が手付かずだった分野で存在感を示しています。

革新的なアプローチが評価され取引高は急成長し著名な企業にも支持されています。組織の意思決定を民主化し、横断的な支出管理を可能にすることを目指しており、各国企業とのオープンイノベーションを通じて事業拡大が期待されます。

コーポレートカードから始まったPayEm、承認から精算まで経費に関わる全てを自動化したワケ