OpenAI Japan代表語る「AI社会到来」ーー MUIP Innovation Day 2024レポート 1/3

2024.12.02

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本稿は三菱UFJイノベーション・パートナーズ(MUIP)が10月18日に開催した大型イベント「MUIP Innovation Day 2024」のセッションをまとめたもの。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の事業会社各社とのオープンイノベーションを念頭に、スタートアップ・テクノロジーとの融合はどのようなシナジーを生み出すのか。セッションの内容を紐解いてご紹介する。

AI社会の到来とスタートアップ連携の意義

10月18日、MUIPは年次カンファレンス「MUIP Innovation Day 2024」を開催した。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)取締役代表執行役社長兼グループCEOの亀澤宏規氏は、その挨拶の中で、現在進行形で到来している生成AI技術の発展を「演繹的思考ができるようになってきた」と述べ、この破壊的なイノベーションが銀行・金融業界にとって大きなビジネスモデルの変革をもたらす可能性を指摘する。

この変化に対応するため、MUFGではAIインテリジェンスチームを設置し、金融分野独自のLLM開発にも意欲を示している。

一方、こうした技術的変革も社会に実装しなければ、ただの技術に終わってしまう。そこで重要な役割を果たすのがスタートアップとの連携だ。彼らは技術を社会のニーズに合わせ、適切に実装する能力を持っている。

亀澤氏は中期経営計画における産業育成イノベーション支援の一環として、スタートアップ戦略部を新設したことを説明した。「銀行取引からビジネスマッチング、エクイティ投資による資金支援、上場支援まで、グループの総合力を結集してワンストップでサポートする体制を整えたい」と意気込みを語る。

「MUIP Innovation Day 2024」の壇上に上がった三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役代表執行役社長兼グループCEOの亀澤宏規氏

このスタートアップ戦略部とともにMUFGグループとスタートアップをつなぐ、それがMUIPの役割でもある。亀澤氏は、社会課題の解決と活力ある社会の実現に向けて、MUIPには、スタートアップとMUFGとの橋渡し役として、一層の活動強化を期待すると締めくくった。

なお、MUFGは12月19日、20日の2日間にわたり、MUFGスタートアップサミットを開催する。このイベントは約3,000名の来場者を見込んでおり、主にMUFGの顧客企業とスタートアップ企業との出会いの場を創出することを目的としている。

両ステージ合わせて2日間で25本以上のセッションが予定されており、政府系機関やスタートアップ企業など40社弱が参加するブース展示のほか、グループが持つ企業ネットワークを活用した大規模な商談会も実施される予定だ。

OpenAIの企業理念とグローバル展開

OpenAI Japan 代表執行役員社長の長﨑忠雄氏

カンファレンスのセッションは「生成AI」で幕を開ける。10月15日、MUFGはOpenAIとの提携を発表した。関連してOpenAI Japan 代表執行役員社長の長﨑忠雄氏が、同社の目指す未来像とAI実装の可能性について講演を行った。

AWS日本法人の立ち上げに携わった経験を持つ長﨑氏は、日本におけるAI実装の重要性と、企業におけるChatGPTの活用事例を紹介しながら、AIがもたらす社会変革への展望を語る。

OpenAIは2015年、AIリサーチカンパニーとして設立された。「全人類に利益をもたらす安全な汎用人工知能(AGI)を創造すること」をミッションに掲げ、全ての意思決定をこのミッションに基づいて行っている。

現在、同社は世界的な拡大期を迎えている。東京オフィスはアジア初の拠点として開設され、その後シンガポールにも拠点を設置。米国ではシアトル、ニューヨーク、欧州ではパリ、ブリュッセルへと、グローバルなフットプリントを急速に広げている。組織規模としてはグローバルでまだ2,000人以内という状況だが、主力製品であるChatGPTは世界最速で1億ユーザーを達成。その後もユーザー数は増加を続け、現在では週間アクティブユーザー数が2.5億人に達している。

今は特に企業向けのChatGPT Enterpriseについて、日本企業への認知向上と導入の促進に力を注いでいる段階なのだそうだ。

グローバルでは、大手テクノロジー企業とのパートナーシップも進んでいる。その代表例としてはやはり、Appleとの提携が注目される。最新のiOSにChatGPTがOSレベルで組み込まれている。ユーザーのセキュリティとプライバシーを重視するAppleが、AIストラテジーの最初のパートナーとしてOpenAIを選んだことは、同社の技術力と信頼性の証左といえる。

AIモデルの進化

長﨑氏は「他のハイテク企業と異なる点は、リサーチ部門の優位性とそれを製品化するアプライドチーム、そして顧客対応チームの3つが非常に緊密に連携している点」と説明する。この連携により、高度な技術を誰もが使いやすい形で提供することが可能になっている。

モデルの進化も著しく、GPT-3から始まったモデルは、チャット機能、翻訳機能、コンテンツ生成機能など、できることを飛躍的に増やしてきた。最新のGPT-4oでは、音声対応や画像対応などマルチモーダルな機能が追加され、さらなる可能性が広がっている。

長﨑氏は、このAIモデルの進化がもたらす影響について、自身が手がけてきたクラウドコンピューティングの普及との類似性を指摘する。「クラウドがソフトウェアの可能性を広げたように、AIは人間のサービス提供の可能性を無限に広げる可能性がある」と述べている。

企業における活用は、主に3つの領域で進んでいる。第一に、従業員一人一人の働き方の変革、第二に業務ワークフローの自動化、第三に顧客向け製品・サービスのAI化である。特にChatGPT Enterpriseは、その直感的な操作性と高い知能により、生産性の向上、コスト削減、製品価値の増大、より自然でインタラクティブな顧客エンゲージメント醸成など、企業内のあらゆる部門で活用が進んでいる。

最近では、「Advanced Voice Mode」という新機能が追加され、人間との自然な会話が可能になった。また、「ChatGPT Canvas」という新機能も発表され、文章作成やコードのデバッグ、トランスレーションなどの作業を、より効率的に行えるようになっている。

さらに、OpenAIは全く新しいモデル「OpenAI o1-preview」シリーズを発表した。従来のGPTが予測的な処理を得意としていたのに対し、o1は人間のように論理的に考えて回答を導き出す特徴がある。これにより、複雑な問題解決や数学、科学、ロジスティクス、戦略構築などの分野での活用が期待されている。

企業におけるChatGPT活用の実態

ChatGPT Enterpriseと個人向けChatGPTの最大の違いは、セキュリティ面にある。

企業向けサービスでは、シングルサインオンなどの認証機能が強化されているほか、企業が使用したデータは一切学習に使用されないという特徴がある。さらに、誰でも簡単にカスタムChatGPTを作成できる機能も備えており、これが企業での幅広い活用を可能とし、Fortune 500企業の92%の社員に利用されている。

中でもモデルナ社の事例は、ChatGPT Enterpriseの効果的な活用を示す好例だ。

同社は当初、OpenAIのAPI を使用して独自のチャットボットを開発していた。しかし、2023年8月にChatGPT Enterpriseが発表されると、社内で検証を実施。独自開発のチャットボットと他社の競合製品を含めた比較評価を行った結果、ChatGPT Enterpriseが全ての評価項目で最高得点を獲得し、移行を決定した。

導入からわずか数ヶ月で、モデルナ社内には700以上のカスタムGPTが作成されたそうだ。例えば、法務部門では契約書検索や従業員からの法務関連の質問に答える「Contract GPT」を、臨床試験チームは膨大な文献データから最適な投与量やデータを導き出す「Clinical GPT」を作成している。各部署や役割に応じたGPTを簡単に作成できる点が、急速な普及につながった。

金融分野では、モルガン・スタンレーがウェルスマネジメント部門でOpenAIとパートナーシップを組み、サービスの高度化を進めている。

ChatGPT Enterpriseの特徴は、OpenAIが持つ高度な知能と、企業固有のデータを組み合わせて活用できる点にある。また、Function Callingと呼ばれる機能により、企業内の既存ツールと連携することで、さらなる使いやすさを実現している。これらの機能は開発者向けのAPIでも利用可能で、企業のニーズに応じた柔軟な開発が可能となっている。

次世代AIがもたらす可能性

OpenAIは最近、従来のGPTシリーズとは異なるアプローチを持つ新しいモデル「OpenAI 1o-preview 」を発表した。従来のGPTが高速な予測的処理を特徴としていたのに対し、「1o-preview」は人間のように論理的に思考を積み重ねて回答を導き出す特徴を持っている。

このアプローチにより、複雑な問題解決、数学、科学分野での活用はもちろん、ロジスティクスや戦略構築といった、より高度な思考を必要とする分野での活用が期待されている。

長﨑氏は、これを「パラダイムシフト」と表現し、AIの新たな可能性を示すものと位置づけている。

またそれ以外の機能も充実してきた。

ChatGPTの新機能として発表された「Canvas」は、画面を分割しながらChatGPTとやり取りを行い、文章の質を向上させることができる。また、開発者向けには、コードのデバッグやトランスポーティング(移植)機能が強化され、世界中の開発者から好意的なフィードバックを得ている。

そして驚くべきは「Advanced Voice Mode」の実装である。これまで質問と回答に中断があったChatGPTとの「会話」は中断なく続けられるようになった。

この機能により、人間との自然な会話がリアルタイムで可能になり、アプリケーションやサービスの開発に新たな可能性が生まれている。これは特に、音声インターフェースを活用したサービスを開発する企業にとって、大きな機会となることが期待されている。

「AI社会到来」の実現に向けて

長﨑氏は、自身のキャリアを振り返りながら、日本におけるAI実装の重要性を強調する。AWSでのクラウドコンピューティング普及、F5ネットワークスジャパンの日本法人立ち上げ、Dellでのサーバービジネス展開など、日本におけるテクノロジー普及のために常に最前線で活動してきた経験から、「AIの社会実装には、特に日本において大きな可能性がある」と指摘する。

AIの実装が進むことで、社会全体がどのように変わっていくのか。長﨑氏は「人間が本来取り組むべきクリエイティビティに、より多くの時間を費やせるようになる」と展望を示す。日常的な業務の多くがAIによって効率化され、人々は本質的な創造的活動により多くのリソースを投入できるようになるというビジョンである。

締めくくりとして長﨑氏は、「社会全体のAI実装を進めることで、人間本来の創造的な活動にフォーカスできる社会が、近い将来必ず実現する」という確信を示し、この変革を日本企業と共に推進していく意欲を表明した。

次稿ではMUFGとの提携を発表したその背景、ビジョンが語られたセッションの模様をお送りする。

OpenAI Japan代表語る「AI社会到来」ーー MUIP Innovation Day 2024レポート 1/3